翻訳に必要な7つのカード ー翻訳を独学するー

翻訳
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Koujou Blog は、翻訳を独学しているすべての方を応援しています。

ある時「優秀な翻訳者になりたい!」と思い、翻訳を独学していくことを決めたのですが「何から始めればよいのかわからない」状態が長く続きました。

日本語を勉強したり英語を勉強したりはするものの、つねに「この方法は正しいのか」という疑問と不安を抱えていました。

そこで、まずは翻訳を独学するときの指針を作るべきだと考え、翻訳に必要なスキルや能力を洗い出して「翻訳に必要な7つのカード」というアイデアを考案しました。

私と同じ境遇の方のために、このアイデアをこの場を利用して共有したいと思います。

7つの技術の組み合わせが自分の翻訳の力に

さて、「翻訳にはセンスが必要だ」と言われることがあります。

確かに、思わず息をのむような洗練された訳文を書くには、生まれ持った才能や幼少期の常軌を逸した読書体験などが必要かもしれません。言語の運用能力に関しては、遺伝子の影響も少なからずあるでしょう。

しかし、この7つのカード(7つの技術)を一枚一枚しっかりと勉強していけば、昨日の自分よりは確実に良い翻訳を生むことができるようになります。

翻訳にあたって自分に何かが不足していることを思い知らされたとき、その何かを「能力」だと考えていては、親を恨むか、DNA療法の飛躍的な進歩に期待をかけるしか方法はなくなる。不足しているのはもっと具体的な何かである。

翻訳とは何か 職業としての翻訳 p. 114 山岡洋一 (2001)

翻訳を仕事にしている(または仕事にしたい)私たちにできることは、翻訳を能力ではなく技術としてとらえて、その技術を向上するほかないのです。

上記引用の「具体的な何か」を、私は7つのカード(技術)として言語化しました。積み立てた「7つの技術の組み合わせ」が、他の人には取って代わることのない自分の翻訳の力となります。

翻訳に必要な7つのカード

前置きが長くなりましたが、私が思う「翻訳に必要な能力」は以下のようになっています。

このカードたちは、私の大学、大学院(応用翻訳学)時代の翻訳学習と、現在の社内翻訳校閲者としての経験(2年以上)と、参考資料(本ページ下部記載)に基づいて作りました。

この7つのカードを1枚ずつ丁寧に学んでいけば、優秀な翻訳者に近づけると確信しています。

さて、以下ではこの7つのカードについて詳しく説明していきます。

注意:7つのカードおよび本ページは、「実務翻訳」かつ「英日翻訳」を想定して作成しました。しかし、出版翻訳などの他の分野、そして他言語間の翻訳にも応用できる点は多々あると思います。

翻訳学習の目標とは

翻訳学習をしていくといっても、まずは「学習の目標」を定める必要があります。目標が曖昧だと、非効率的な学習や無駄な学習をしてしまう可能性があるからです。

私は、一般的な翻訳の目標は次の2つを同時に達成することだと思います。

つまり、➀原文の意味と訳文の意味の等価性を保ちながら、②読者が自然に読める訳文をつくることが、翻訳の一般的な目標になります(注意:翻訳の目的によって、この目標はいろいろ変わることがある)。

この➀と②を同時に達成するのが難しいのですが、優秀な翻訳者はこの目標を高い水準でこなすことができます。

原文の意味が正確に反映されていて、かつ読みやすい訳文を納品する優秀な翻訳者は、いうまでもなくトライアルに受かりやすくなります。高いレート継続的にお仕事を獲得できる機会に恵まれます。

反対に、顧客と読者の要求する➀+②の水準を満たせない場合は、まずトライアルには受かりません。運よく受かった場合にも、翻訳の品質に問題があれば継続的には発注されなくなります。

というわけで、この2つの目標を高いレベルで達成できるようにするのが、一般的な翻訳学習の目標になります。

この目標に向かって勉強することで、結果的に、 高いレートでお仕事を継続して依頼されることになり、翻訳で安定した生活を送ることができるようになるかと思います。

というわけで、常に翻訳の目標を意識して勉強に取り組みましょう。

翻訳の基本は3つのカード

上記の学習の目標を理解したうえで、7つのカードの勉強方法について説明していきます。

7つのカードはやみくもに取り組めばいいというわけでもありません。翻訳学習には翻訳作業の仕組みに基づいた優先順位があります。まずは翻訳作業のプロセスとともに、一番大事な3つの基本カードを説明いたします。

翻訳作業では以下のように3つのプロセスを、先ほど説明した「翻訳の目標」に達成するまでぐるぐると回り続けます。

原文を読み取る。原文と訳文が対応するように訳文を作る。出来上がった訳文の完成度をチェックする。訳文に不自然な表現があれば、手直しする。手直しすることによって、原文と訳文との間にずれが生じる場合がある。そこで、原文をもう一度読んで対応させる。こうしてぐるぐる回るように作業をしていると、そのうち、回しても動かなくなる。そこで、ひとまず翻訳が完成ということになるのだと思います

https://www.alc.co.jp/translator/article/tobira/symposium2016_01.html

これは井口耕二さんの考えですが、私も業務を通して同じ意見にたどり着きました。

つまり、翻訳の作業では、➀原文を読み、②訳文を書く段階で、翻訳の目標である「原文の意味=訳文の意味」という等価性をもたせます。そして③訳文を洗練する段階で、訳文を自然に読めるように改善します。

言うまでもなく、➀原文を読む力と②訳文を書く力が一番重要です。原文で読めなかった点は翻訳に反映されませんし、訳文を書く力はそのまま翻訳の質(=翻訳者としての価値)に直結するからです。

③の訳文を洗練する力は、いわば「セルフ翻訳校閲力」です。 簡潔には➀と②だけで翻訳は完成するのですが、③の訳文を洗練する力により、翻訳の質はさらによりよくなります。

このように3ステップで示すと、翻訳作業って非常にシンプルに見えますが、実際は数々のスキルが求められます。この3つのプロセスの中で、翻訳者はさまざまな問題に直面し、頭をフル回転させて解決することになります。

いっけんシンプルなのにものすごく奥が深いところが、翻訳というお仕事の魅力なのだと思っています。

その他4つのカードは、基本カードを支える

また、その他の4つのカードは、翻訳の基本カードを支えて、翻訳の効率性や正確性を向上させます。

私は、この中で一番大切な力が「⑦翻訳に対する姿勢」だと感じています。翻訳という仕事に責任を持ち、真剣に取り組む姿勢がなければ良い翻訳は生まれないと思うからです。

例えば、以下のような心持ちで翻訳を行っている方が悪い翻訳を生み出すことは少ないと思うのです。

翻訳とは全体に対して最終的に責任を負う仕事です。外国語で書かれた文書の内容を母語で 伝えることに全責任を負うことこそが翻訳という仕事の核心であり、最大の魅力でもあります。

山岡洋一、翻訳通信「翻訳学習の考え方( http://www.honyaku-tsushin.net/ron/bn/tr-gakusyu.html )より引用」

さて、以下では7つのカードをひとつずつ詳しく見ていきます。

➀原文を読む力

「原文を読む力」は、「原文の意味を理解する技術」です。原文を読むことが翻訳作業の始まりとなります。当たり前のことですが、訳文を書く前の作業になります。

読めないことは、書けない。

原文を読む際に、肝に銘じておくべきことは「読めないことは、書けない」ということです。

原文を読むときに落としてしまったものは失われます。

できる翻訳者になるためにプロフェッショナル4人が本気で教える翻訳のレッスン 高橋さきの、深井裕美子、井口耕二、高橋聡 p. 9 (2016年)

原文の内容を理解できないまま訳文をつくると、上記で述べた「翻訳の目標」の「➀原文の意味と訳文の意味を一致させること」が達成できなくなります。

ですので、原文を読む力は極めて重要といえます。

目標は、「筆者の意図」を読むこと

では、どこまで読めていれば、理解していれば訳文を書く段階に移って良いのでしょうか。翻訳における原文を読むことの目標は何でしょうか。

翻訳における「原文を読む」とは「筆者の意図を理解すること」です。

原文の筆者はもちろん、原文の言語・論理で考えて、原文の文化のもと文章を書きます。ですので、筆者の意図には、原文の文化、考え方、論理、感情等の訳文言語にはないものがいろいろ含まれています。

話を戻して、翻訳の目標のひとつは「原文の意味と訳文の意味をできる限り一致させること」でした。この原文の意味には言語・文化による違い、つまり筆者の意図まで含まれます。ですので、翻訳においては、筆者の意図まで理解してから訳文を書く必要があるのです。

そして、筆者の意図を掴むには、以下の3つの要素を理解する必要があります。

  1. 単語レベルでの理解
  2. 文レベルでの理解
  3. 文全体レベル (原文の背景情報を含む) での理解

単語がわかって、文がわかって、背景情報を含む文全体の意味がわかれば「筆者の意図」がわかります。単語と文の意味がわかっていても、文全体で何を言おうとしているのか理解していなければ、学生時代に授業でやってきたような英語和訳(逐語訳)になってしまいます。

原文の背景情報とは

原文の背景情報には、例えば以下のようなものが含まれます。

  • 筆者の情報
  • 対象読者の情報
  • 原文の目的
  • 発表媒体は何か

これらの背景情報を適宜調べることで、筆者の意図が理解できるようになり、翻訳者としての深い読みが可能になります。

読む技術を向上させるには

以上より、翻訳における原文を読む技術を鍛えるためには、単語の意味を覚える・分析する、文法を覚える・分析する、原文の背景を分析する力を鍛えることが大切だとわかります。

原文を読む力のまとめ

  • 原文の意味を理解する技術
  • 翻訳作業の起点となり、「読めないことは書けない」ので極めて重要な力
  • 単語、文、文全体をすべて理解し、「作者の意図」まで読み取るのが目標
  • 勉強としては「単語を覚える・分析する」「文法を覚える・分析する」「原文の背景を分析する力を鍛える」が挙げられる

②訳文を書く力

「訳文を書く力」は、「原文で理解したことを、目標の言語の文章で伝える技術」です。英日翻訳ならば、日本語の文章技術ということになります。

訳文を書く力が、翻訳の技術の根幹

翻訳者にとって、生み出した訳文が唯一の商品となります。いかに調査する力やツールを使う力、原文を読む力が高くとも、最終的な納品物である「訳文」のみが顧客とエンドユーザーに評価されます。 ですので「訳文を書く力」が一番大切な技術と言えるでしょう。

書く力と読む力は比例の関係にある

訳文を書く力が大事な理由のひとつに、次のことが挙げられます。

日本語を書く技術が高ければ、そこに見合った水準まで、外国語を読む技術と内容を理解する技術が高まっていくのが通常である。

翻訳とは何か 職業としての翻訳 山岡洋一 p. 141 (2001)

これは、日本語力が高い人ほど、洗練された訳文を生み出す気持ちが強まるので、原文を細部まで読む、理解する傾向にあるということを意味します。訳文を書く力の勉強が、原文を読む力の勉強にもプラスに影響すると言えそうです。

書く力と校閲の力は比例の関係にある

さらに、訳文を書く力を伸ばすとセルフ校閲力も伸びます。

日本語を書く技術の力があれば、原文を読み間違えたときに、誤りを発見する可能性が高くなる。日本語を書く技術によって、いわば、フィードバックの仕組みがはたらくようになる。

翻訳とは何か 職業としての翻訳 山岡洋一 p. 143 (2001)

つまり、訳文を書く技術を学ぶと、原文を読む力も訳文を洗練する力も伸ばすことができるというわけです。

というわけで、翻訳を学ぶ際には、学びに対して得られる技術が最も高い「訳文を書く力」に最も時間を割くべきと言え、これが翻訳技術の根幹になっていることがわかります。

目標は、「筆者以上の書く力」

訳文を書く力の目標は、原文のレベルによります。

翻訳に必要な文章力とは、物書きとして、筆一本で食べていけるだけの文章力なのだ。幸徳秋水によれば、「原著者以上に文章の力がなくては」翻訳はできない。

翻訳とは何か 職業としての翻訳 山岡洋一 p. 150 (2001)

産業翻訳において、原文を書く人は一般の会社員の場合が多いかと思います。この場合は、いわゆるビジネスライティング程度の力が求められるということになります。

これが出版翻訳の場合は、原文を書いた方は文章のプロなので、翻訳者にもプロレベルの文章力が求められるということになります。これが出版翻訳が難しい理由のひとつであることは間違いありません。

書く技術を向上させるには

では、「筆者以上の文章力」はどのように育めばいいのでしょうか。独学で行っていく場合は、出版翻訳の場合はとくに以下のセルフ添削という方法をおすすめします。こちらの方法は、自然な訳文作りという点において、実務翻訳でも効果があると思っています。

プロの訳書から学ぶセルフ添削勉強法

  1. 自分の尊敬する、または有名な翻訳家を特定する
  2. その方の訳書と原書を手に入れる
  3. 訳書を見ないで、原書を翻訳する(パラグラフごと等)
  4. 訳書との違いを確認する
  5. 学び取れるものはノートして次に活かす
  6. 再び3に戻り、繰り返していく。
  7. 一冊終えたら次の本に移る

このようにセルフ添削という形を取れば、いつでもどこでも私淑するプロの翻訳家から技術を学ぶことができます。

この他にも、文章技術の本を読んだり、普通に本を読んで表現を盗んだりと、文章の腕を上げる方法はいくらでも考えることができます。目的に合った方法を探す必要がありそうです。

訳文を書く力のまとめ

  • 原文で理解したことを、目標の言語の文章で伝える技術
  • 訳文が商品になるので、一番大事な力と言える
  • 訳文を書く力が、読む力とセルフ校閲力を鍛える
  • 筆者以上の書く力を目標とする
  • 勉強方法としては、名文や名訳、文章読本などから学ぶことが挙げられるが、とくに出版翻訳の場合はセルフ添削がおすすめ

③訳文を洗練する力

訳文を洗練する力は、言い換えれば「セルフ校閲技術」です。一度訳した翻訳をチェックする作業です。(関連記事:翻訳の校閲者とは?

翻訳において自分の作った訳文を読み返して修正する作業はとても重要かつ内容が深いので、②訳文を書く力と分けることにしましたが、訳文を書く作業と、書いた訳文を確認する作業が明確に別かれているわけではないです。同時に行うこともあれば、順々に行うこともあります。

自分を疑う力

この段階で行うことは大きく分けると、以下の2つです。

  1. 客観的なエラーをなくすこと
  2. 自然な訳文になるように改善を加えること

どちらにも共通して言えるのは、「少し前に訳文を作った自らを疑いながら、訳文を確認すること」です。自分を疑う力が必要になります。なぜなら、ヒューマンエラーという言葉もあるくらいで、たとえプロフェッショナルであっても人間は基本的に間違えることがあるからです。

客観的なエラーをなくすこと

一つ目は客観的なエラーをなくすことですが、「客観的なエラー」とは、「誰が見ても間違っているとわかる点」です。例えば「訳抜け」です。原文と訳文を見て、原文の単語や文の抜けが訳文にあれば誰が見ても「間違っている」とわかりますよね。

客観的なエラーには以下のようなものが挙げられます。

  • 誤訳(原文の意味と一致しない)
  • 訳抜け
  • 誤表記(表記についての関連記事はこちら
  • 直訳すぎる
  • 配布された参考資料・用語集・翻訳メモリー等からの逸脱
  • レイアウトの間違い

このような客観的なエラーが存在したまま納品すると、顧客からクレームをいただくというような大きな問題に繋がります。

表記等については、校正ツールなどを利用すると迅速に確認できますが、誤訳などは拾うことはできないので、基本的には自分を疑いながら全文を読み返すことが確実かと思います。

自然な訳文になるように改善を加えること

二つ目は訳文の読みやすさに改善を加えることです。後から自分の訳文を声に出して読んでみると、すらすらと流れるように読めないことがあります。その場合は以下のような点を修正する必要があります。

こういった点を改善すると、さらに読みやすい洗練された訳文になります。

洗練する技術を向上させるには

まずは自分を疑う力、つまり「説明できない点がなくなるまで徹底的に調べる力 (④調査する力) 」を付けることが大事です。または、校正ツール等の技術を学ぶことで訳文を洗練する技術は高速化します。その他にも、これは「②訳文を書く力」にも言えることですが、自然な日本語を書く技術を学ぶことが挙げられます。

訳文を洗練する力のまとめ

  • 訳文を作った自らを疑いながら、訳文を確認する技術
  • 客観的なエラーをなくして、訳文を洗練する
  • 読みやすさを改善して、訳文を洗練する
  • 校正ツール等も使用するべきだが、基本的には全文を読み返す必要がある
  • 徹底的に調べる力(④調査する力)、校正ツール等の技術を学ぶ、自然な日本語を書く技術を学ぶことで向上できる

④調査する力

調査する力は、「原文(単語・文・文全体)の意味を調べる」技術と「適切な訳語を調べる」技術を指します。この「調査」ですが、上記で説明した翻訳の目標である「原文の意味=訳文の意味」を達成するためには必須の作業です。翻訳者として仕事をしていると、原文や正しい訳語の意味を調べている時間がものすごく多いと思います。

別の角度から捉えてみると、自分の訳文に対して何か質問をされたとき、いかなる質問へも論理的に説明できるような状態にするのが調査の目的です。

こちらの記事(翻訳のお仕事で心に留めておきたいこと)にも書いていますが、自分の翻訳する内容に関するいかなる質問にも答えられるよう、徹底的に調べあげることも「翻訳へ責任を持つこと」の一つだと思います。

調査の方法としては、各種辞書を引いたり、Googleなどの検索エンジンを利用したオンライン検索を行います。状況によっては、筆者に質問をするということもあり得ますが、実務翻訳の場合はなかなか想定されません。業界用語などについては、「⑥専門知識」が重要になることもあります。

調査する力では、辞書やパソコンなどのツールを使う力が求められるので、次に説明する「⑤ツールを使う力」と重複するように思えますが、目的が違います。調査する力でのツールを使う目的は「原文の意味=訳文の意味」という翻訳の目標を達成するためです。

調査する力を向上させるには

調査に使用する主なツールである、辞書の利用方法とGoogle検索の技術を向上させることがまず大事です。辞書の使い方ひとつとってもかなり奥が深く、大変重要な力なので、今後詳細に説明できるようにしていきたいです。

調査する力の関連記事はこちら

翻訳に必要な辞書環境を構築する

調査する力のまとめ

  • 「原文の意味を調べる」技術と「適切な訳語を調べる」技術
  • 「原文の意味=訳文の意味」を達成するためには必須の作業
  • 訳文に対するいかなる質問へも論理的に説明できるような状態にするのが調査の目標
  • 主に辞書やGoogle検索を利用(筆者への質問や専門知識が必要なこともあり)
  • 調査の主要ツールである辞書の利用とグーグル検索の技術を向上させること
  • 徹底的な調査は、翻訳への責任のひとつ

⑤ツールを使う力

ツールを使う力は、翻訳支援ツール(Computer Assisted Translation(CAT)ツール)を使う技術です。翻訳業務の効率化と翻訳文の統一性などの品質向上のために必要な技術です。

CATツールにはさまざまな種類があり、その機能も多岐にわたりますが、主なCATツールの種類は次のようになります。

  • 翻訳メモリー・・・一度翻訳した原文と訳文のペアを登録して、将来、参照したり引用したりできる。
  • 用語集・・・原文の単語と訳文の単語のペアを登録して、将来、参照したり引用したりできる。
  • QAチェック・・・スペルチェック、訳抜け、表記の不統一、訳文の不統一などの客観的なエラーを検知する(例:Just Right!、色deチェック等)
  • その他・・・マクロ、AutoHotkey、ワイルドカード等の翻訳の効率化・品質向上を助けるもの

こういった機能を1つにまとめたものが、Trados・MemoQ・Memsourceといったソフトウェアです。こちらは翻訳会社から使用や購入を求められることもあります。こういった意味では、ツールを使う力は翻訳者の必須の技術と言えます。

ツールを使う力を向上させるには

Trados等の有名なソフトウェアには、公式のマニュアルがあります。こちらを参照しながら、またはインターネットで調べながら、実務を通して少しずつ学んでいくしかないと思います。最初は大変なのですが、ひとつのソフトウェアを学べば、他のソフトウェアも類似点が多いので学びの速度があがるかと思います。

マクロやAutoHotkeyなどは、使い方が難しかったり、情報が世間に出ていなかったりするので自分で学ぶのは難しいかもしれません。そういう場合は、東京ほんま会翻訳者のためのマクロ勉強会といったツール関連の大きなセミナーに参加するのが良いと思います。

ツールを使う力まとめ

  • 翻訳支援ツール(Computer Assisted Translation(CAT)ツール)を使う技術
  • 翻訳業務の効率化と翻訳文の統一性などの品質向上のために必要
  • 翻訳会社から求められることもあり、必須の技術ともいえる
  • 有名なソフトウェアは公式マニュアルやインターネット検索で独学
  • 独特なツールは、セミナーで教えていただく

⑥専門分野の知識

実務翻訳において、専門分野を持つことは極めて重要です。

専門分野を持つ理由

専門分野を持つ理由のひとつに、高いレートと受注率の安定化が挙げられます。

英語が読める人材が増えるなかで、企業がお金をかけてまで外部に翻訳を依頼するのは、原文の専門性が高くて理解/翻訳できない場合、または理解/翻訳に時間がかかる場合だと言われています。よって、専門的で難解な内容を訳すことのできる特定の分野のスペシャリストに需要が集中します。

また、あまり専門性の必要ない翻訳案件(メール案件等)も存在するかと思いますが、こういったものについては今後ますます機械翻訳が使用されていき、レートの低いポストエディットの仕事ととして頼まれるようになる可能性があります。

こういった理由から、本文冒頭でお話しした「翻訳学習の目的」である、高いレートと高い受注率を確保するためには、専門分野を持つことが大切なのです。

専門分野の分類ー基本分野、枝分かれ、ニッチ、組み合わせ

専門分野を持つといっても、翻訳業界にはどのような分野が存在するのでしょうか。基本的な分野を以下に示します。

  • 技術・工業
  • 医薬
  • IT
  • 特許
  • 法律、契約書
  • 金融
  • マーケティング・WEB
  • その他ビジネス関連

これは、翻訳市場に存在する分野を大まかに分類したものです。ここではこれを「基本分野」と呼ぶことにします。

翻訳業界では、多くの場合で便宜上このような大きな分類方法を取っています。翻訳会社側でもこの基本分野に基づいてトライアルの募集をかけることが多いように思います。

しかし、この分類表記法では表せない分野もあります。

実際の翻訳分野は多岐にわたり、例えば「技術・工業」分野ならば、「航空・宇宙関連」や「エネルギー・原子力関連」といった枝分かれした分野が存在します。

他にも、上記の分類にはでてこないようなニッチな分野(植物、昆虫関連等)もありますし、
個々の分野が組み合わさることもあります。例えば、ある医薬会社が自社商品を外部に紹介する資料を作成した場合は、医薬×マーケティングの要素を持つ翻訳案件が生まれます。

「実際の翻訳分野の広さや複雑さ」については、これ以上詳しく触れませんが、頭の片隅に入れておくとよいかと思います。

専門分野を決める

上記のように専門分野となり得るものは多岐にわたるわけですが、まずは一定の需要がある「基本分野」の中から、自分に合う専門分野を見極めていくのが一般的かと思います。

実際に専門分野を決める際には、その分野について(1)自分は他の人より知識があり得意と言えるか、(2)勉強するのが好きか、(3)業界で需要が高まっているかなど、いろいろな方向から考える必要があります。

私は、とくに(2)の勉強をしていてワクワクするかどうかを基準に選んでいただければよいかと思います。いくら知識があり、いくら業界内でレートが高くても、勉強していて楽しいと思えなければ、学習がうまく進まず、長い目で見て良い翻訳を生み続けることができないと考えるからです。

専門分野の知識を向上させるには

専門分野の知識を付けるには、該当分野の原文と良い訳文を読んで研究するのが大切かと思います。しかし、独学で勉強していると中々そういった関連文書を入手できないかと思います。

ですので、個々の専門分野の勉強方法については、翻訳雑誌(例: 産業翻訳パーフェクトガイド p68~73 )やネット(プロ翻訳者の意見)に記載されているので調べてみると良いです。産業翻訳パーフェクトガイドでは、独学の方向けのサイトや書籍などの紹介もされていてためになります。

専門分野の知識の関連記事はこちら

専門分野の知識まとめ

  • 高いレート、高い受注率を得るには専門分野を持つ必要がある
  • 専門分野の定義は実はいろいろあるが、まずは翻訳業界や翻訳会社で広く使われている「基本分野(大枠の分野)」から専門分野を選ぶのが一般的
  • 専門分野を決める際は、いろいろな観点から考えること
  • 独学の場合、専門分野の学習方法は「産業翻訳パーフェクトガイド」やネットにあるプロ翻訳者の意見を指針にする

⑦翻訳に対する姿勢

最後は、翻訳に対する姿勢です。翻訳の勉強となるとこれまでに挙げた➀~⑥の技術に集中しがちかもしれませんが、私はこの翻訳に対する姿勢こそ最も大事な翻訳の力だと信じています。

自分の翻訳に責任を持つということ

先ほども述べましたが、この7つ目の技術を一言で表すならば、「自分の翻訳にどれだけの責任を持っているか」です。翻訳の職業倫理とも言えます。

具体的には、以下のような姿勢を維持できているかどうかで、翻訳に対する責任の程度を知ることができます。

  • 自分の翻訳について、その根拠を説明することができる
  • 些細なエラーもなくそうとする高い品質を目指している
  • 納期に遅れない
  • 自分の能力に合わない案件は断る
  • 自分の翻訳を疑うことができる
  • 自分の翻訳の質を常に向上させようと努めるている

自分の翻訳に責任を持ち、こういったことが基本としてできている翻訳者は、結果的に翻訳会社から良い評価を受けて、高いレート・高い受注率を獲得することができます。

翻訳に対する姿勢を向上させるには

この翻訳の職業倫理のようなものは、著名な翻訳者の書籍に書かれていたりしますが、とくに業界全体で厳格なルールのようなものがあるわけではなさそうです。常識と言いましょうか、「あたりまえ」のこととして認識されているように感じています。

確かにあたりまえのことなのですが、案外、翻訳の初心者はこの点に意識を向けることができなかったりします。そういった方は、日本翻訳協会(JTA)が定める「翻訳者の倫理綱領」に目を通しても良いかと思います。網羅性が高く好例かと思います。

その他にも、クライアントや翻訳会社とのやり取りの中で培われていくのがこの技術なのだと思います。

翻訳に対する姿勢まとめ

  • 自分の翻訳にどれほど責任を持っているか
  • 姿勢がしっかりしていると、結果的に高いレート・高い受注率で翻訳ができる
  • 著名な翻訳書の書籍、翻訳団体の倫理綱領、翻訳会社とのやり取りのなかで培われていくもの

まとめ ー 7つのカードの可能性

この7つのカードは、学ぶべき翻訳技術の指針となります。

なんとなく掴みどころがなく、時として果てのないように思える翻訳学習ですが、7つのカードのように可視化するといろいろ見えてくるものがあります。例を以下に示します。

  • 翻訳に必要な技術を俯瞰できる(勉強すべき内容がわかる)
  • 何を学んでいるのかすっきり整理することができて、記憶に定着しやすい
  • 自分の弱みを補強したり、強みをもっと伸ばしていくというような、個々に合った学習アプローチを取ることができる
  • 「ああ、こんな翻訳技術もあるんだ」と、新しい技術の発見ができる
  • 今月はこの能力を集中して学ぶ、といったような学習計画を立てるのにも役立

Koujou Blogでは、7つのカードを使って、翻訳の学習というなかなか先の見えないものをできる限り見える化させていきます。

そして、個々のカードについて何をどのように勉強していくべきか、具体的な技術を共有していきたいと思います。

私と同じような境遇にある翻訳の独学者さんのお役に立てたら幸いです。

参考資料

(1)井口耕二さん:体育会系翻訳のトレーニング論
https://www.alc.co.jp/translator/article/tobira/symposium2016_01.html

(2)できる翻訳者になるために プロフェッショナル4人が本気で教える 翻訳のレッスン (講談社パワー・イングリッシュ)

(3)翻訳スキルハンドブック (アルクはたらく×英語) 駒宮 俊友

(4)翻訳通信ネット http://www.honyaku-tsushin.net/

(5)翻訳家で成功する!―徒弟修業からインターネット・オーディションまで 柴田耕太郎

(6)英日日英 プロが教える基礎からの翻訳スキル 田辺希久子 光藤京子

(7)翻訳とは何か: 職業としての翻訳 山岡洋一

(8)最新版 産業翻訳パーフェクトガイド (イカロス・ムック)

(9)DVD付 翻訳事典2019-2020 (アルク地球人ムック)

お忙しい中お読みいただき、どうもありがとうございました。

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