本記事では、まっとうな実務翻訳者になるための一つの道筋をお伝えします。翻訳の詐欺が横行するなかでなるべく迅速にこの情報を発信しようと思いました。至らないところはお許しください。
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内容に移る前に、私の記事も唯一の正解ではないことをご理解いただきたいと思います。
例えば、私はまずは専門分野を決めることを推奨していますが、 明確に専門分野を持たずともトライアルに受かりさえすれば実務翻訳者にはなれます。また、翻訳会社等のトライアルを受けずとも、ランサーズ等のクラウドソーシング会社からトライアルなしで受注することも可能です。
後半でお伝えしますが、「持続可能な実務翻訳者」になる方法の一つとして本記事を参考にしていただければ幸いです。
まっとうな翻訳者になるには
一般的に、実務翻訳者(産業翻訳者とも言う)になるには以下のような手順を踏むことになります。
- 専門分野を決める
- 基本能力を身につける
- トライアルを受ける
- 仕事を通してさらに能力を磨いていく
ひとつずつ説明していきます。
1.専門分野を決める
実務翻訳の世界には、その需要の量から以下のような専門分野が認識されています。
- 技術・工業
- 医薬
- IT
- 特許
- 法律、契約書
- 金融
- マーケティング・WEB
- その他ビジネス関連
実際に専門分野を決める際には、その分野について(1)自分は他の人より知識があり得意と言えるか、(2)勉強するのが好きか、(3)業界で需要が高まっているかなど、いろいろな方向から考える必要があります。
私は、とくに(2)の勉強をしていてワクワクするかどうかを基準に選んでいただければよいかと思います。いくら知識があり、いくら業界内でレートが高くても、勉強していて楽しいと思えなければ、学習がうまく進まず、長い目で見て良い翻訳を生み続けることができないと考えるからです(専門分野に関する記事:翻訳者としての個性を活かす)。
専門分野について詳細を知りたい方は下記の書籍をお読みください。こちらのガイドは毎年更新されています。最新版ではない可能性がありますのでご注意ください。
2.基本能力を身につける
専門分野が決まればあとは勉強していくだけです。
翻訳者には以下のような7つのスキルが求められますが、ひとつずつ少しずつ学んでいきましょう。
各種スキルを学ぶための方法とその内容は多岐にわたります。
ネットの情報・書籍・通信講座・翻訳学校、使えそうなものはすべて使って翻訳の知識を血肉に変えましょう。
社内で翻訳の校閲者から始めるという手もあります(参考:社内の翻訳校閲者のすすめ)。
どの程度学べば仕事をしてもよいか
また、翻訳の仕事を始めるまでにどの程度学べばいいかですがこれは非常に難しいです。何か翻訳に関する検定やコンテストを活用するのも手だと思います。たとえば以下が指標になります。
- 翻訳のコンテストに受賞した
- ほんやく検定に合格した
- 経験のある人からの良い採点をいただいた
- トライアルに合格した(トライアルは一度落ちると一定期間受けられなくなることもあるのでご注意ください)
- 専門分野に関する検定に合格し、TOEIC等の英語検定でハイスコアを取得した
- 翻訳学校のコースを修了した
- など
よく言われる「TOEIC900点以上」や「英検一級」などの英語の検定に関しては、取得しておいたほうがいいに決まっていますが、翻訳のスキルの一面(原文を読む力)を反映するに過ぎないため最重要視はしておりません(TOEIC900点取れば翻訳ができると勘違いしてほしくないため記載)。
案件によっても変わりますが、すべてのスキルがバランスよく大切になると思います。
3.トライアルを受ける
上記の指標を参考に、学びが進んできたと思えたら翻訳のトライアルを受けます。
自分の専門分野で、できる限り好条件の会社のトライアルを受けていただきたいです。
探すのが難しい場合は、翻訳会社と翻訳者をつなぐアメリアという有料会員制サービスがあるので、こちらを利用してみてもよいかと思います(私は利用したことがないのですが、わるい話は聞きません)。
4.仕事を通してさらに能力を磨いていく
トライアルに合格した後は、仕事を通して7つのスキルをさらに磨いていきます。
トライアルに合格したからといって学びをおろそかにしてはなりません。
では何を目的にして学んでいくべきなのでしょうか。
翻訳学習の目的
翻訳学習の目的はやはり「品質を高めること」に集約されると思います。
目の前の品質を高めることこそが高いレートと継続的な依頼をもたらし、ひいては翻訳者人生の生活に余裕をもたらすからです。
ですのでトライアルに合格したあとも、一つの案件からいろいろなことを学び前に進んでいかなければならないと思います(自戒を込めて)。
以上です。
ざっくりとした説明でしたが「まっとうな翻訳者」になるための道を説明させていただきました。
以下ではなぜ本記事のタイトルに「まっとう」という言葉をつけたのか、その理由を記載しておきます。
インターネットの情報がまず読まれる世界
2019年9月頃からいまだに翻訳の詐欺が横行しているようで心が痛みますが、この詐欺からわかってきたこともいくつかあります。(翻訳業界でのCV詐称問題に関する記事はこちらから。)
たとえば、翻訳者になりたいと思っている人たちにしっかりとした情報が行き届いていないということです。
一方、この世界には翻訳業界についての「しっかりとした情報」が確かに存在しています。
インターネット上ではプロの翻訳者さんたちが個人ブログや各種SNSで発信されていますし、まじめな翻訳講座もたくさんあります。翻訳業界のことがよくわかる書籍(翻訳事典とか)だっていろいろ出版されています。
しかし、これから翻訳を始めよう!と思う方々がまず行うのは簡単なインターネット検索で、そのネット上で正しい情報に行き着く前に、甘い誘惑である詐欺の広告に引っかかってしまう現実があったわけです。
不正をして書類選考やトライアルに受かったという歴史は一生ぬぐえません。
目指すべきは、正しく学び正しく稼ぐまっとうな翻訳者です。いわば「持続可能な翻訳者」。
Twitterを見ていると、なんとなく翻訳詐欺が収束しているように思えてしまうのですがこれからどうなるかわかりませんし、新しい翻訳の詐欺が出てくるかもしれません。
ですので、私はこれからも翻訳業界について確からしい情報を発信していきます。
インターネット上に一つでも有益な情報を残せますように。
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