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今回は、日本語の表記についてまとめます。
この記事では、表記の問題の事例をひとつずつ挙げて解説するような、表記の細かい説明はいたしません。表記というものを俯瞰して、その全体像を説明いたします。つまり、以下を目標にこの記事を作成しました。
日本語の表記とは何か、表記はなぜ大切なのか、どのように表記を正すべきかなど、翻訳における表記の取り扱い方の大枠を理解する。
私は校閲のお仕事を始めてから、日本語の表記というものがなぜ大切なのか分かってきました。
表記をしっかりさせると、文章から煩わしさがなくなり読者にとって読みやすいものになるのです。
ちなみに「適切な表記の使用」は、「訳文を洗練させる力( 翻訳に必要な7つのカード参照)」 に該当します。
日本語の表記とは
日本語の表記ついて考える場合は、まず「表記」の意味について知っておく必要があります。
表記とは「表(おもて)に記されたもの」なので、日本語の表記は、漢字や平仮名だけでなく、句読点や括弧類、その他記号すべてを含むと理解できます。
この総称的な意味を持つ表記を、可能な限り分類してみると次のようになりました。
注意:この分類は、個人的な経験や調べ学習に基づいています。
翻訳における「表記を正す」とは、この言語系、記号系、その他表記をすべて正すことを意味しています。
この分類図ですが右側にまだまだ細かい項目があり、実は表記について考えることはたくさんあります。
あれも修正して、これも修正してと、慣れるまではなかなか骨の折れる作業と言えます。
適切な表記は、可読性を高める
前項で、表記の意味する範囲についてはその大枠を理解できました。
次に表記がなぜ重要なのかを知るために以下の事例を考えてみます。
- もし不適切な表記を使っていたらどうなるでしょうか。
例:「次のとうりです。」や「1人づつ」などの表記がある - もし文章全体を通して表記が統一されていなかったらどうなるでしょうか。
例1:記号に関して、半角と全角がごちゃ混ぜになっている
例2:「行う」と「行なう」がごちゃ混ぜ
上記の二つの例からわかる通り、不適切な表記を使っていたり、表記が統一されていないと、文章が読みにくくなります。
つまり、文章の読みやすさを上げるために適切な表記の運用が大切なのです。
「適切な表記」と「表記の統一」を行うこと
さらに上記より、翻訳において表記に関しては以下を達成する必要があるとわかります。
- 適切な表記を使う
- 表記を統一させる
表記についてこの二つのことを達成すれば、文章の読みやすさは上がります。
「2. 表記を統一させる」に関しては、求められるのは注意力だけです。文章全体で表記を統一させてください。その際は、MS Wordの校閲機能や「Just Right!」を利用すると素早く表記のチェックができます。
ここで問題となるのは、「1. 適切な表記を使う」です。「適切な表記とは」いったいなんだという問題に直面します。そして、表記の問題は算数とは違って絶対的な答えがないことが多いです。ですので、適切な表記を追求することが、翻訳者のお仕事とも言えるわけです。
適切な表記とは
表記に関しては誰もが納得する絶対的なルールはありませんが、 一般的な表記法として「現代表記」 があります。
その他にも顧客や翻訳会社が発行しているスタイルガイド、新聞社が発行している記者ハンドブックなど、よりどころとなる文書はいろいろあります。
こういった表記に関する指針を、目の前の翻訳文章に対してどのような優先順位で使っていくかが問題となります。
表記の指針と優先順位
以下は、私の思う一般的な指針の優先順位です。
指針とする文書の優先順位
- 顧客や翻訳会社のスタイルガイド
- 文化庁の内閣告示や文化審議会等の国が発行した文書
- 日本翻訳連盟(JTF)や日本翻訳協会(JTA)等のスタイルガイドや、新聞社が発行している記者ハンドブックなど大きな組織が発行している文書
- 自分の感覚(説明責任を問われる)
翻訳はビジネスなので 1. 顧客・翻訳会社(のスタイルガイド)を最優先し、 2. 国 → 3. 大きな組織 → 4. 個人という信頼性の高い順に優先していくのが一般的かと思います。
顧客からスタイルガイド等が与えられていなかった場合は、内閣告示を参考にしたり、JTFやJTA等のスタイルガイドや新聞社の用字用語集を参考にすべきです。
すべての参考資料に書かれていない表記のルールについては(またはリサーチできなかった場合)、自分の感覚に頼るしかありません。
その場合は、顧客や翻訳会社にそのような表記を選択した「理由を説明できる」状態にしておく必要があります。
また、文章の種類によっても表記は変わるということも覚えておきたいです。例えば児童向けの翻訳では、現代表記よりもわかりやすい表記が求められます。
適切な表記を選択する方法
一例ですが、適切な表記を選択する際は以下の図のような流れになります。

言語系である漢字・平仮名・片仮名の問題以外は、顧客または翻訳会社のスタイルガイドや大きな組織のスタイルガイドでほとんど解決されると思います。
漢字・平仮名・片仮名については、スタイルガイドに書いてないこともあり、国の文書や新聞社の用字用語集などを毎回調べて、ときには自分の頭で考えて最適な表記を選択する必要があります。
その際に最も便利な一冊が、以下の記者ハンドブック(共同通信社)。
この記者ハンドブックは、基本的には「内閣告示」や「旧国語審議会」、「文化審議会」といった国の発行した文書に基づいて作成されています。そして抜群に読みやすいです。よって、信頼性と読みやすさの面から、漢字や平仮名、片仮名の使い方に迷った場合は、一番はじめに使う参考資料にして良いと思います。
調べ方については、詳細にご説明しませんが、以下のページを主に参照することになります。
- 全体的な用字用語の確認は、122ページからの用字用語集を利用する
- 常用漢字については、12ページ
- 送り仮名の付け方については、94ページ
- 現代仮名遣いについては、88ページ
- 外来語の表記については、755ページ
記者ハンドブックはいろいろな新聞・通信社が発行しています。1冊しっかり使いこなすことができたら2冊目も購入し、各社の表記法の違いを学ぶのもいいかと思います。
表記のまとめ
では、以下に翻訳における日本語表記についてまとめます。
- 適切な表記の運用は、文章の読みやすさを上げる
- ➀適切な表記を使うこと、②表記を統一させることが目標
- ②表記の統一は注意すれば可能だが、➀適切な表記を使うのは難しい
- 適切な表記には様々な指針があったり、複雑な問題が隠れていたりする
- 指針の優先順位としては、1. 顧客・翻訳会社のスタイルガイドを最優先し、 2. 国の発行物 → 3. 大きな組織の発行物 → 4. 個人の判断という順にするのがいいと思う
- 記号系、その他表記については、顧客・翻訳会社のスタイルガイドや大きな組織のスタイルガイドを参考にすれば、基本的には対処できる
- 言語系については、記者ハンドブック等をフル活用する
- 表記の問題について、すべての参考資料にあたっても答えがでない場合は、最終的には自分の判断になるが、なぜそのような選択をしたか説明できるようにしておく
- 文章の種類によっても表記は変わる (絵本 vs 公用文)
以上です。お忙しい中お読みいただきどうもありがとございました。
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