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本日は以前投稿した「日本語の表記について」の続編として、日本語の表記の世界について掘り下げて考えていきたいと思います。
以前、翻訳者の井口耕二さんから引用リツイートという形で「日本語の表記について」 の記事に以下のような意見をいただきました。
ここに書いてあるのは基礎の基礎。その先に、基礎を守った上で、あえて表記を散らしたり、あるいは、漢字とかなの比率が望む範囲になるよう訳文そのものを変えたりする世界がある。こっちはスタイルガイドなどが参考にできないのでややこしい。 https://t.co/YSDYIJ540R
— 井口耕二 a.k.a. Buckeye (@BuckeyeTechDoc) November 3, 2019
(Twitterの内容は公に発信するものと解釈し、 申し訳ないのですがご本人から許可をいただかずに掲載しております。)
おかげさまで、「日本語の表記について」 では表記法について基礎的なことしか扱っておらず、その先にはまだまだ興味深い表記の世界が広がっているということに気が付くことができました。
本記事では、 指針や統一に縛られない表記の世界について調べたことを書いていきます。
・現代表記や顧客のスタイルガイドといった表記の指針が参考にならないような表記の問題とは何か
・表記の指針を越えた問題への対処方法を考える
ちなみに「適切な表記の使用」は、「訳文を洗練させる力( 翻訳に必要な7つのカード参照)」 に該当します。
言語系の表記が、難題なんだいっ!
日本語の表記を大まかに分類すると以下のようになります。

このなかでも本記事で取り扱うのは、言語系の表記です。言語系の表記を細かく分類すると以下のようになります。

このように分類してみると、言語系の表記で気を付けるべき事項がたくさんあることに気が付きます。
漢字一つとっても、送り仮名の付け方は正しいのだろうか、常用漢字表外ではないだろうかなど思考をめぐらせる必要があります。
また、外来語を使う場合も長音符号を付けるべきかなどに注意を払わなければなりません。
これだけ見ても言語系の表記をしっかりさせるのは大変なことだとわかります。
表記の指針が参考にならなかったり、指針を破ったりする状況がある
本記事の表記の分類で示した「記号系」や「その他」に関しては、指針に従って➀適切な表記を使用し②その統一を徹底すれば、読みやすさにおいて問題は発生しません(日本語の表記について を参照)。
しかし、言語系の表記においては国の定めた「現代表記」や顧客の定めたスタイルガイドといった指針が参考にならない、またはそういった指針を破らなければいけない状況があります。
例えば、以下のような状況には指針が参考にならないことがあります。
・漢字や仮名だけが続く場合(常用漢字の不使用)
・執筆対象が児童や専門家の場合(常用漢字の不使用や表外漢字の使用)
・送り仮名に違和感を覚える場合(例:行う vs 行なう等)
・その他
他にもいろいろなケースがあるように感じるのですが、今は言語化できずにいます。
こういった場合には、自分の頭でしっかりと考えて表記を決める必要があります。
表記の指針の向こう側へ
表記の指針があてにならないケースがあるということを言及しましたが、その対策方法について書いていきたいと思います。
まずは執筆対象によらず幅広く起こり得る問題の「漢字だけ、または仮名だけが続く場合」について考えていきたいと思います。
漢字だけ、または仮名だけが続く場合
日本語は「漢字仮名混じり文」とも言われ、一般に漢字と仮名(平仮名と片仮名)で構成されます。
そして、表記のことを考えるとその比率がとても大切になります。
漢字ばかりが続いても、平仮名ばかりが続いてもその文の可読性は低くなります。(ただし片仮名ばかりが続く状況はあまり考えられないので考慮にいれない。)
平仮名ばかり続く例:このけっかみんなでざんぎょうすることになった
漢字ばかり続く例:この結果皆で残業することになった
視覚的なわかりやすさのために
上記で示したように、漢字だけ平仮名だけが続く文は読みにくくなるので、以下の対策を行って漢字だけ平仮名だけが続く状況をなくすことが必要になります。
- 文自体を見直す(この結果、私たちは残業することになった)
- 漢字を平仮名にしたり、平仮名を漢字にしたりする(例:この結果みんなで残業することになった)
つまり、2のように視覚的なわかりやすさのために表記の指針や統一を無視することがあるわけです。
また、ここから考えられることは、契約書などのお堅い文章に頻出する「及び」「又は」等の接続詞は、別に平仮名でも良いのではないかということです。厳かな雰囲気を醸し出すためだけに(?)漢字を乱用するのはいかがなものかと思っております。
常用漢字表は「目安」
そもそも内閣告示の常用漢字表はあくまで「漢字使用の目安」と設定されています(文化庁HP)。
ですので、目の前の文章のわかりやすさを追求するためならば遵守しなくてもよいと言えます。
児童を対象とする場合
次に「児童を対象とする文書」の場合に言語の表記をどうすればよいのか考えていきます。
児童を対象とする場合は、当然ですがその児童が理解できない漢字を避ける必要があります。
つまり、年齢や状況に応じて以下のような配慮を行う必要があります。
- 対象年齢にあった教育漢字を使う
- 振り仮名(ルビ)を付ける
- 括弧書きで読みを示す
学校学習指導要領の学年別漢字配当表に記載される1006の漢字。児童を対象とする文書において使用する漢字範囲の目安となる。
校閲者として働く前は、児童用の出版物にあるようなルビを見てもなにも思いませんでしたが、今ではその背後にある編集者の努力を感じることができます。
まとめ
さて、表記のなかでも「言語の表記」では指針が使えないケースがあり、個々のケースに応じた対応が必要になることがわかりました。
以下に本記事の内容を簡単にまとめておきます。
- 言語の表記では指針があてにならない場合がある
- 視覚的なわかりやすさのために、指針や統一を無視して漢字と仮名の比率を整えることがある、または文自体を変えることがある
- 児童を対象とする文書の場合は、教育漢字といった指針を参考にするだけではなく、ルビや括弧書きを利用する必要がある
本記事の前編である「日本語の表記について」という記事では、表記の基本的な取り扱い方をまとめています。
参考文献
以上です。
お忙しい中最後までお読みくださりどうもありがとうございました。
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