人の文章を読んだりお話を聞いていると、自分の頭の中では意味が判然としない「カタカナ」に出会うことがあります。
また、自分で文章を書いたり話したり、とくに翻訳をするときは「カタカナ」を使うか使わないか悩むことがよくあります。
格好つけて「コンセンサス」だとか「クリエイティブな~」とか言っちゃうこともしばしば。
「カタカナってなんで使いたくなるんだろう。どの程度までなら使用してもいいのだろうか。」
いろいろと考えた結果、話し言葉にせよ書き言葉にせよ、「不必要なカタカナは使うべきではない」という結論に至りました。
本記事では、カタカナの正しい取り扱い方について「カタカナ語」という耳触りのよろしくない言葉を使って考えていきたいと思います。
もしよろしければ、コメント欄やお問い合わせなどで皆さんのご意見もお聞かせください。
- 外来語の乱用・氾濫では、何が問題となるか
- 外来語のなかでも使ってはいけない「カタカナ語」とは何か
- 翻訳者、ライター、日本人としてどのようにカタカナ語を取り扱うべきか
議論の的:「カタカナ語」について
まず、本記事で議論する「カタカナ語」の位置づけを整理しておきます。
以下の図は、日本語(単語)の分類のイメージ図です。
議論の便宜上、私が勝手に調査して考えたものなのであまり正確性は考慮していません。この点はご了承ください。

日本語の単語は、➀和語、②漢語、③外来語、そして④カタカナ語に区別できます。
本記事の議論の的にするのは「カタカナ語」です。
「カタカナ語」というものをこの記事では以下の引用と同じ意味で取り扱います。
「外来語」は「自国語と同様」、すなわち日本語の中に取り込まれて使われることばであるのに対して、「カタカナ語」は普通カタカナで表記される語で、それは必ずしも日本語の中に同化して使われている語ではないということになる。
JapanKnowledge 「外国語」と「カタカナ語」の違いは?https://japanknowledge.com/articles/blognihongo/entry.html?entryid=413
つまり「カタカナ語」は、日本語として完全に根付いていないカタカナ表記の語です。
この点を考慮して、上記の図では、「カタカナ語」は日本語の中に入っていたり、外にあったりする形で描いています。
外来語を「国語化の程度」から分類
さらに整理すると、外来語は「国語化の程度」から以下の三つの種類に分けて考えることができます(元資料の内閣告示(1991)「外来語の表記」についてはオンライン上では発見できなかった)。
外来語を「国語化の程度」から分類
➀借用した時代が古く、国語に融合している語(たばこ・天ぷら)
カタカナ語(外来語)基本語句550語ーその語彙特性と選定基準 http://www.kobe-yamate.ac.jp/library/journal/pdf/univ/kiyo06/06inoue.pdf
②日本語として定着しているが、外国語の感じが残っている語(ラジオ・スタート)
③まだ日本語として定着せず外来語の感じが残っている語(ジレンマ・フィクション)
こちらは「外来語」として紹介されていますが、上記引用③が本記事でいう「カタカナ語」に該当します。③は日本語に根付いていないカタカナを意味します。
まとめますと、多くの日本人が正しく理解できる借用語が「外来語」で、特定の日本人にしか理解できないカタカナの借用語が「カタカナ語」です。
・外来語:多くの日本人が理解できるほど日本語として定着している、外国の文化から取り入れた言葉(必ずしもカタカナである必要はない)
・カタカナ語:特定の日本人しか理解できず日本語として定着していない(または定着し始めている)、外国の文化から取り入れたカタカナの語
カタカナ語が氾濫するとどうなるか
さて、「外来語の乱用」や「外来語の氾濫」という言葉を耳にすることがあります。「外来語」と言われていますが、正確には上記で説明した「カタカナ語」の使いすぎによる問題の指摘だと理解できます。
では、カタカナ語を使いすぎるとどのような問題が発生するのでしょうか。
➀話し手が意味をしっかりと理解せずにカタカナ語を利用する。
②受け手がそれに応じて意味が理解できない
③両者でコミュニケーションの問題が発生する
④カタカナ乱用が続くと、国全体でコミュニケーションの質が下がる
⑤経済活動の質と速度が下がる
⑥最悪、国力の低下につながる
④以降は半分妄想ですが、言葉には力があるのでカタカナ語が氾濫すれば本当に国力が低下してしまうのではないかと思っています。
不必要なカタカナ語は使わないこと
さて、ここまでで議論すべきカタカナ語とは何か、カタカナ語が氾濫するとどうなるかを考えてきました。
「カタカナ語」は使いすぎると情報伝達に悪い影響をもたらすかもしれない、ということがわかりました。
情報伝達の際に誤解を生まないように、そして日本の国力低下を引き起こさないために私たちができるのは、普段から意識して「不必要なカタカナ語は使わない」ことです。
不必要なカタカナについては、何が不必要なカタカナなのか自分の頭で考えて状況に合った対応をしなければなりません。
情報伝達がうまく機能するかを判断基準にする
忘れてはならないのは、すべてのカタカナを排除する必要はないということです。
特定の状況においてカタカナのほうが情報伝達の方法として上手く機能する場合は、カタカナを使えばいいのです。
ある場合においては、そのカタカナが許される、いやむしろカタカナのほうがいい場合ってありますよね。
- 専門用語として使用する
- 言葉を強調するために使用する(揶揄など。例:アホ)
- 先進的な雰囲気を出すためにマーケティング等で使用する
- 文の見栄えのために使用する
カタカナは、言葉を強調する力や先進的な雰囲気を出す力、和語と漢語ばかりの文の見栄えを整える力などいろいろな力を持っています。状況に応じてカタカナを使うべき瞬間が往々にしてあるわけです。
ですから、カタカナを使うと誤解を与えてしまいそうな場合に限り、和語や漢語を利用すればいいわけです。
「情報伝達がうまくいくかどうか」を判断基準に、カタカナ語を使うべきか、それとも和語や漢語を使うべきか、じっくり考えて日本語を使っていきたいです。
翻訳初心者への基準
また、宮脇孝雄さんの著書『翻訳の基本』では、翻訳の初心者はカタカナ語を以下の場合に使用しないことを勧めていいます。
- 動詞化したカタカナ語は使わないようにする(例:トライする、オープンする、ジャンプする)
- 形容詞のカタカナ語を使わないようにする(例:ハッピー、ラッキー、ゴージャス)
名詞はいちど置いておいて、まずはこの動詞と形容詞のカタカナ語を使わないことを意識してみてはいかがでしょうか。
- 外来語の氾濫では、「外来語」すべてが悪いわけではない。
- 多くの日本人に誤解を与えるような、日本語として根付いていない「カタカナ語」は使わないほうが良いということ
- 不必要な「カタカナ語」の多用は、最終的に国力の低下につながるかもしれない
- 普段から注意して、「情報伝達がうまく機能するか」を判断基準に「和語」、「漢語」、「カタカナ語」を選択すること
- 翻訳の初心者は、まずは「動詞化したカタカナ語」と「形容詞化したカタカナ語」を使わないことを検討してみる
この記事を書き終えて思うことー翻訳者の日本語を作る責任
翻訳をしてこの世に言葉を誕生させるときに、翻訳者は「大規模な日本語の投票を行っている」と考えることができます。
例えば、特定のAという新しい日本語を翻訳文に入れると、その言葉Aが日本社会に少し浸透することになります。
この特定のAという日本語を100回、1000回、1万回と発すれば、その言葉はいつか有名な辞書に掲載され、日本人の誰もが理解できる本当の日本語になるかもしれません。
日本人が脳内から言葉を選んで社会に発するとき、「あなたは、この言葉を日本語として浸透させたいですか。日本語にしたいですか。」という言葉の投票をしているわけです。
翻訳者は外国の文化を日本語にして伝える職業なので、この投票を行う数が必然的に一般の方々より多くなります。そして、日本語を作っていくという責任を負っているとも考えられます。
さて、カタカナについて山岡洋一さんは以下のように述べています。
片仮名の言葉には、それのもとになった英語の言葉との間に微妙だが無視できない違いがあるのが普通であり、違いが微妙なだけにきわめて厄介なのだ。
翻訳とは何か: 職業としての翻訳 山岡洋一著 p. 54
それでも、片仮名語が翻訳で頻繁に使われているのは、片仮名にしておけば安全だという感覚があるからだ。
この記事で考えたとおり、翻訳でカタカナを使うのは決して「安全」ではありません。誤解を生む種になり得ます。
この記事を通して、私は「翻訳者として日本語を作っている」という責任をもち翻訳の仕事に臨まなければならないと思うことができました。カタカナの使い方はとくに気を付けたいものです。
本日はこれで以上です。Koujou Blogは翻訳を独学している方々を勝手に応援しています。これからも時間の許す限り有益な情報を皆さんにお届けしたいと思います。お忙しいなかお読みいただきどうもありがとうございました!
参考資料
(1)「外来語」と「カタカナ語」の違いは? https://japanknowledge.com/articles/blognihongo/entry.html?entryid=413
(2)カタカナ語(外来語)基本語句550語ーその語彙特性と選定基準 http://www.kobe-yamate.ac.jp/library/journal/pdf/univ/kiyo06/06inoue.pdf
(3) 山岡洋一さん 『翻訳とは何か 職業としての翻訳』
(4)宮脇孝雄さん『翻訳の基本 原文どおりに日本語に』
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