翻訳は、創造力の必要なお仕事です

⑦翻訳に対する姿勢
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2019年9月初旬、翻訳業界ではCV(履歴書)詐称の問題が浮上し、Twitter上で話題になりました。

この問題が多くの関係者に議論されて、少しずつ収束していくのを私は黙って見ていることしかできなかったのですが、今朝、やっと自分の思いがまとまったのでここに意見します。

私の意見は、「翻訳は創造力の必要な仕事であり、この創造力を習得するには時間がかかる」ということと「翻訳を教える側も教わる側もこの事実を知っておいてほしい」ということです。これがプロの翻訳者の翻訳を、約2年間この目で見てきた私の思いです。

この問題の根底には、教える側と教わる側で「翻訳者になるのは簡単だ」という意識があったように思えてならないのです。

まるで「食べるだけですぐに10kg 痩せる!」や、「これを塗るだけ簡単、髪ふさふさ!」といったようなデータ元は不確かなのに訴求力のある広告を作る業者と、それに飛びついてしまう消費者の問題に似ているような気がします。

こういった信じがたい商品広告にだまされる人は、自分だけが痛い目を見て終わりますが、今回の翻訳業界におけるCV詐称問題は、翻訳会社などの他の方に迷惑をかけているという点でその悪質性が高いと言えるでしょう。

翻訳業界でのCV詐称問題の要約

まず、この騒動を要約しておきます。この出来事をこれから先ずっと忘れないためにです。この要約は私のネットリサーチのみに基づきますので、不備や語弊があるかもしれません。ご了承ください。

翻訳業界でのCV詐称問題

 

➀ ある翻訳者(Z氏とする)が、在宅翻訳起業を支援するネットビジネスを開始。ホームページには 「最速最短で、業界TOP1%の翻訳家に」や「英語力・学歴・パソコンスキル一切不要」などといった内容が記載されていた。

② 関係者の証言によると、1000人以上が受講者として入会。(翻訳者になりたい人が多いということを再認識できる)

③ Z氏は、受講者にさまざまな誤った指導を行った。そのひとつが「練習問題やトライアルの結果を実績としてCVに入れてよい」というもの。 翻訳業界を知らない受講者はこれを鵜呑みにしてCVを書き、トライアルを受けた。合格者も多く出た。

④ この一連の行為が著名な翻訳者の方々の目に留まる。すぐに、大々的な注意喚起が報じられ「CV詐称はいけない、CV詐称したものはブラックリストに入れること」などの「当たり前なのだけど重要な情報」が翻訳業界に広まり、問題はいったん収束に向かった。(なお、2020年7月初旬現在、Z氏は同じビジネスを続けている。問題は終わっていなかった。)

建設的なハッシュタグ「#実績ゼロから翻訳者に」が生まれた

ここからは明るい話ですが、この問題と並行してTwitterでは「#実績ゼロから翻訳者に」と「#どうやって翻訳者になったか」というハッシュタグが話題になりました。そこでは多くのフリーランス翻訳者さんたちが、どのような形で翻訳者になったのかその経緯を語ってくれています。

この経験談は大変貴重だと思いました。読めば読むほど「ああ、こんな方法もあったのか」と、フリーランス翻訳者になるための「正しい」そして「面白い」方法が学び取れます。

深読みかもしれませんが、このハッシュタグは今回だまされてブラックリストに入ってしまった受講者さんや、これから翻訳者になる夢と希望を持った人たちに贈ったものだと理解しています。

とにかく、このような平和かつ建設的なアプローチでこのCV詐称問題はいったん終息を迎えました。 (もちろん、CVを詐称する人は消えないでしょう)

翻訳を学ぶということの難しさ

ここからは冒頭の私の意見、 「翻訳は創造力の必要な仕事であり、この創造力を習得するには時間がかかる」 について深堀りしていきます。

翻訳のノウハウの大部分は、そう簡単に言語化できない

プロの翻訳者になるのに時間がかかる理由は、翻訳を学ぶということの難しさにあります。

翻訳の勉強は以下の図のように、➀「創造力」と②「知識」を学ぶことの2つに大別することができるのではないかと思っています。

まず、右側の「知識」についてですが、こちらは一言で言うと「本にできるノウハウ」です。例えば、CATツールの使い方や、辞書の使い方など、答えが定まっているもので言語化できるのです。一度覚えることが出来れば、ずっと使えるものです。

反対に、左側の「創造力」についてですが、ひとことで表すならば、「状況に応じて、最適な翻訳を生む」です。言語化が難しいのですが、ニュアンスを上手く訳出できる力です。

プロの翻訳者は、頭の中に複雑な状況下でも最適な解を導く回路があるのだと思います。創造力はこれを言い換えたものです。ある人はセンスや個人の資質などと呼ぶかもしれません。

翻訳のように非定型的で個人の資質に左右される業務は、なかなかマスプロ教育では教えにくい。

翻訳家で成功する!(著:柴田耕太郎)p.94

この創造力については、なかなか言語化ができないのです。(プロの翻訳者に、どのようにして質の高い翻訳を生んだか聞いてもなかなか上手く説明できない)よって、教えるのは難しいし、学ぶにもかなりの時間がかかります。しかしそのぶん、AI(MT:機械翻訳)に取って代わることのないスキルとも言えます。

翻訳を学ぶ上で、この創造力がかなり大事だということに気が付きました。もちろん知識ありきの創造性なので、知識も大事ではありますが、創造力がなければリライトしなければならないような不自然な翻訳を作ってしまいます。

翻訳は創造力の必要な仕事である

さて、再び冒頭のCV詐称問題への意見に戻りますが、プロの翻訳者になるには時間がかかります。なぜならこの学ぶことの難しい創造力を育む必要があるからです。

素晴らしい指導者さんや翻訳学校は、この創造力に目を背けず日々奮闘して教えているのだと思います。添削などがその例です。添削は、創造力を教えるとても大変なお仕事ですよね。

反対に今回問題にあがったZ氏は、教えるのには難しい創造力は置いておいて、トライアルに合格するための知識を教えています。(実際、受講者の翻訳練習への添削をしていない。CVやトライアルの添削はしている。)

というわけで、
翻訳は創造力の必要な仕事であり、この創造力を習得するには時間がかかる。」と伝えたいのです。

翻訳を教える側も教わる側も、この事実をしっかりと心に留めていただきたいです。このことをご存知であれば、CV詐称をしてまで、自分を偽ってまで翻訳者になろうとする人は出てこなかったと思います。そんな簡単に翻訳者になれると思ってはなりません。

コメント

  1. 事情通 より:

    実は、トライアルも添削しているんです……

    • Yuji Yuji より:

      そうなのですね。。。ご報告ありがとうございます。また、お忙しい中お読みいただきありがとうございました!

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