翻訳のお仕事で心に留めておきたいこと

⑦翻訳に対する姿勢
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Koujou Blogは、翻訳を独学しているすべての方を応援しています。

本日は、山岡洋一さんの著書である「翻訳とは何か 職業としての翻訳」から学んだことをまとめておきます。

この本からは多くの学びが得られるのですが、今回は私の心に響いた3つに厳選させていただきました。

クラウドソーシングを通して初めて翻訳の仕事を経験した大学院生の自分や、翻訳についてほとんど何も知らなかった大学生の頃の自分、社内で翻訳の仕事を始めてから疲れてしまった自分に宛てて書きます。

この記事の目的

何も知らなかった過去の自分へ、翻訳者としての大切な考え方や心構えを伝える。

本記事の内容は、7つの翻訳の技術のうち「翻訳に対する姿勢(翻訳に必要な7つのカード参照)」に該当します。

1.翻訳は技術として捉えて

翻訳について勉強をしていた大学院生の頃、英日翻訳においては「日本語の表現力」が最も大事なのだと感じていました。

そしてこの表現力は、遺伝と幼少期の経験によってその大部分が確定されてしまうという事実にも気づき、少し落胆しました。翻訳家(出版翻訳のお話)を目指す9割の方の夢は果たされないと知ってしまったからです。

しかし山岡さんは、翻訳を技術として捉えることにより、直面する問題の解決策を見つけることができるとおっしゃっています。日本語の表現力も翻訳の技術であり、向上させることができると説いています。

具体的には、尊敬する翻訳家の訳書と原著を購入して、まず原著を読んで自分で翻訳した後に、訳書を使い自己添削していく方法や、規範になる文章から学びを得ることなどを通して日本語の表現力は磨くことができると書かれています。

私には常軌を逸した読書体験や天賦の才はありません。しかし、山岡さんのこの言葉により、大量の良質な読書や翻訳作業によって、誰でも素晴らしい言葉運びができるようになると信じることができました。

大学院生の頃の自分へ

「大丈夫、しっかりと練習をすれば翻訳は必ずうまくなる」

2.物書きであることを忘れずに

話はさらにさかのぼって、私が理学を学んでいた大学生の頃、ある物理学の訳書を読んでいたときに、「翻訳を仕事にしよう」と決めました。

理由のひとつは「自分にもできると思った」からです。その原著は世界的に有名な科学書にも関わらず訳文があまりにも直訳調で、「これなら私にもできる」と思ったのです(英語が好きで、科学が好きで、文章で人に伝えることが好きという理由が前提にある)。

もちろん、今になってあの直訳調には「古典的な原文の意味を尊重する」といったような翻訳目的(スコポス)があったと思うのですが、その頃の私は何も気づかずに「翻訳って簡単そうだな」と思ったのでした。

原文の内容を理解する英語力とリサーチ力さえあれば、あとはAをBにそのまま変換する形で翻訳ができると考えていました。

さて、山岡さんは、原著者よりも高い文章力が無ければ翻訳はできないと言います。

当たり前のことではありますが、翻訳者が売っているのは「訳文」だからであり、その訳文が日本語として洗練されていなければ商品として成り立たないからです。直訳ではいけません。

さらに、翻訳者は「物書きである」ともおっしゃっていて、翻訳における日本語を書く力の大切さを念押ししています。翻訳において、自然な日本語、読みやすい日本語のプライオリティはものすごく高いのです。

最近では、「例えば原文を書いた方が日本人でこの文章を日本語で書いたならどうなるだろう」と考えるようになりました。「原文を書いた人になって、訳文を書く」それが翻訳の一つの答えなのかなとも思います。

大学生の頃の自分へ

「翻訳では、非常に高い水準の文章力が求められるぞ」

3.自分の翻訳に責任を持ってね

社内の翻訳校閲者(翻訳チェッカー)として働き始めて、毎日多くの翻訳を校閲してきました。

ある日、翻訳の校閲という仕事を単なる作業としてこなしている自分に気が付きました。

ベルトコンベアーに乗せられてやってくる翻訳商品を、機械的に点検しているような自分がいて、そこには、なんら驚きや喜びはありませんでした。

むしろ、「なんで指示書を読んでくれないのか」、「なんで自然な日本語を書いてくれないのか」と校閲する翻訳に不満ばかり抱き、最終的には「なんで私はこんな仕事をしているのだろう」とまで考え始め、負のオーラがぷんぷんと出ていた時期もありました。

お恥ずかしい話ですが、当初抱いていた翻訳への情熱は、実務を通して消えてしまっていたのです。

そして、このように私が腐っていたときに、次の言葉に出会ったのです。

翻訳とは、あらゆる独創性の基礎になり、それどころか、社会や文化や技術や経済など、人間のあらゆる活動の基礎になる学習と継承を担っているのである。

翻訳とは何か 職業としての翻訳 山岡洋一著 p. 244

雷が落ちました。身体の中を山岡さんの言葉が貫き、目を覚ましてくれたのです。本当に心拍数が上がったのを覚えています。

翻訳は外国の異なる文化や情報を、人に伝える仕事です。この仕事には社会の発展を助ける力があるのです。

例え翻訳しようとしている文章が簡単すぎて人のためになっているのかよくわからない文章だとしても、翻訳された文章のほうが多くの日本人にとっては英語で読むよりも速く読めるし理解が深まるという点で、ためになっているのです。

そして情報や学びを伝えるからには、翻訳者は伝える文章の内容にはすべての責任を負わなければならないわけです。

翻訳は、新しい情報を日本語で伝えるということで、日本の発展につながっているということ、そしてこの翻訳という仕事に責任を持つことの重要性を教えられました。

私は、翻訳という仕事の価値と責任を知り、再び翻訳への情熱を思い出すことができました。

翻訳への情熱を忘れた自分へ

「翻訳は社会の発展を促進する価値のある仕事だよ。こんな素晴らしい仕事に巡り合えたならば、情熱と責任を持って取り組もう。」

まとめ

上記3つを合わせて、「翻訳は技術として捉えて、物書きであることを忘れずに、自分の翻訳に責任を持ってね」というメッセージになります。

これからもこの心構えを忘れずに、翻訳の道を歩いていこうと思います。

参考文献のご紹介

著者の山岡洋一さんは、アダム・スミスの『国富論』やミルの『自由論』といった古典を翻訳された方です。日本語でも難しい文書を、精密かつものすごい勢いで翻訳されたそうです。その姿は、友人から「怒濤の進撃」や「怪力」と形容されています。

また、翻訳の核心に迫る「翻訳通信(オンラインジャーナル)」を主宰されていました。

こちらの本、『翻訳とは何か: 職業としての翻訳』は、そんな山岡さんの翻訳への情熱と思いがいっぱいにあふれた本です。出版されたのは2001年と、少々過去のものではありますが、その内容は色あせることがないのでしょう。現代の著名な翻訳者の方々も、この本は何度も繰り返し読むべきだとおっしゃっています。

私もこの本の内容には感銘を受けました。翻訳で何か失敗をしたときや、反対にうまくいって有頂天になっているときに、この本を読み返して山岡さんの言葉を反芻し、翻訳への向き合い方を改めるようにしております。

以上です。

最後までお読みいただき、どうもありがとうございました。

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