この記事では、私の仕事である翻訳の校閲(または翻訳チェッカー・校正)についてご説明します。
ここで説明する「翻訳の校閲者」とは、校閲する翻訳に対して原文との事実確認や文体修正まで行う者を想定しているのでご了承ください。当然、翻訳者と同様に原文を読む力と訳文を書く力の両方が求められます。
つまり、「翻訳の校閲者」は翻訳者と同等、またはそれ以上の翻訳能力を有している必要があるということになります。この理由については、以下の説明を読んでいただければ明らかになります。
翻訳の校閲とは
翻訳の校閲とは、翻訳者の納品した翻訳の品質を、顧客が満足する水準まで、改善(校閲)することです。当事者には翻訳者と顧客がいることを忘れてはなりません。つまり、翻訳校閲の業務では、校閲作業を行うにあたり、翻訳者と顧客についても知っておく必要があります。
顧客が満足する水準
お仕事としての校閲作業の終わりはどこにあるのでしょうか。私が思うに、顧客の満足する水準です。当然のことですが、翻訳のサービス業として提供した翻訳商品の品質が悪く、顧客が満足できないものならば、そのあと仕事を発注してもらえなくなってしまいます。
まずは、顧客の満足する水準を明確にする必要があります。顧客の満足する水準は、おおむね以下のようなものを参考にして知ることができます。
- ブランドガイド
- スタイルガイド
- 指定の用語集
- 過去案件
- 納品速度
- 公式ウェブサイト
- 指示書
スタイルガイドや用語集などが配布されない場合でも、公式ウェブサイトに日本語翻訳があればそちらを参考にして顧客の好む品質を推測することができます。
入念にリサーチして顧客の要望に全力で応えることが、翻訳サービス業における良好なビジネス関係を築きます。
翻訳者の納品する翻訳の品質とは
顧客は団体として物事(社内ルール等)を決定するので、一度決めたことはなかなか変更しない傾向にあります。よって、上記の顧客の満足する水準はなかなか変わることはありません。
しかし、個人としての翻訳者の品質はばらばらなことが多いです。もちろん翻訳者が違えば、翻訳の能力や癖が異なるので当然、翻訳の品質は上下します。そして、翻訳者は人間です。同じ翻訳者でも、体調や文章の内容(得意・不得意がある)によっては翻訳の品質にばらつきがでます。
こういった翻訳のばらつきは想定をすることは難しいです。校閲を行う翻訳を納品した翻訳者さんの名前がわかるという状況でしたら逐一記録にとっておくといいでしょう。その人の良い点や悪い点を書いておけば、次回校閲する際に役立ちます。しかし基本的には、ばらつきのある品質の翻訳を校閲しなければならない、と考えてよいです。
翻訳者と顧客の間に立ち、品質ギャップを埋めるのが校閲者
翻訳者の納品する翻訳の品質にばらつきがある一方、顧客の求める品質水準は変わりません。 この品質水準のギャップを埋めるのが校閲者です。このように、翻訳校閲と言ってもただ校閲をするのではなく、顧客と翻訳者の状況を把握する必要があるのです。
校閲作業について
校閲の起点と終点ともいえる翻訳者と顧客について理解したうえで、校閲作業に入ります。
校閲作業は、翻訳文の品質を向上させる行為ですが、これには大きく分けて二つの側面があると思います。
ひとつは「客観的なエラーをなくすこと」で、もうひとつは「主観的な改善を加えること」です。前者を「守りの校閲」、後者を「攻めの校閲」と私は勝手に呼んでいます。それぞれ順番に説明していきます。
守りの校閲
まず一つ目は守りの校閲です。これは、客観的なエラーをなくすことですが、 これが校閲のメインのお仕事になります。校閲の仕事中はまずエラーを抑えることに集中しています。
「客観的なエラー」とは、「誰が見ても間違っているとわかる点」です。例えば「訳抜け」です。原文と訳文を見て、原文の単語や文の抜けが訳文にあれば誰が見ても「間違っている」とわかりますよね。
プロの翻訳者さんでもこういった客観的なエラーを起こしてしまうことがあります。こういったヒューマンエラーをすべて修正するのが、守りの校閲です。
では、実際にどのような客観的なエラーがあるのでしょうか。以下にその種類をいくつか示します。
- 誤訳
- 訳抜け
- 誤表記
- 直訳過ぎる
- 配布された参考資料・用語集・翻訳メモリー等からの逸脱
- レイアウトの間違い
このようなエラーをすべて修正して、原文および訳文の質を守ることが、翻訳校閲者の第一のお仕事になります。 客観的なエラーを取り除くことができない場合は、顧客からクレームをいただくことになります。
攻めの校閲
次は攻めの校閲、つまり「主観的な改善」についてです。 こちらの作業は、守りの校閲である「客観的なエラーをなくす」に比べて、難易度がぐっと上がります。なぜなら以下のような点に注意しなければならないからです。
主観的な改善時の注意点
- 翻訳者が納得できるような修正でなければならない
- 顧客が納得できるような修正でなければならない
「主観的な改善」といっても好き勝手に修正して良いわけではありません。自分の経験と能力、リサーチ内容等に基づいて確実な修正を加える必要があります。
少なくとも、自分の修正した箇所を翻訳者さんに見せて、修正した理由をしっかりと説明し、納得させることができなければならないと思います。
また、顧客に受け入れられないような改善を加えた場合には指摘や処分を受けるというリスクもあります。
このように上記のことを踏まえて、攻めの校閲は行う必要があります。そして、 翻訳の品質を向上させるにはとても重要な作業だと思います。
主観的な改善とは
この「主観的な改善」とは「自分は納得できるが、第三者は納得できないかもしれない翻訳の修正」のことです。誰かにとっては正解であり、他の誰かにとっては不正解である可能性があります。うん、難しい。
例えば、一番よくあるケースでは「直訳調の翻訳の修正作業」がこれにあたります。翻訳者さんはそもそも「これは直訳調ではない」という姿勢で納品していますよね。それを主観的に「これは直訳調だ」と判断し、主観的な改善を加えるのです。
では、この「主観的な改善」には、他にどのような種類があるのでしょうか。以下に、その種類をいくつか示します。
- 直訳調の翻訳を自然な文へ修正
- リサーチにひっかからない用語や文の修正
- 意訳から意訳への修正
このような主観的な改善を上手く行うことができれば、顧客から感謝の言葉を得られたり、ビジネス上良好な関係を築くことができます。
能力の高い校閲者とは
上記を踏まえて、能力の高い翻訳校閲者とはどのような人を指すのでしょうか。
まず、能力の高い校閲者は翻訳者の納品した翻訳品質と、顧客の求める翻訳品質のギャップを見極めることができます。
その後の校閲作業としては、まず守りの校閲を徹底し顧客からクレームの来ない品質に仕上げることができます。
そのうえで攻めの校閲で品質をさらに向上させ、顧客から感謝の言葉を得ることができます。
冒頭でも言いましたが、上記を踏まえれば、能力の高い翻訳校閲者になるには、翻訳者と同等またはそれ以上の翻訳力を有して居なければならないことがわかります。
お給料
お給料は、校閲の範囲、翻訳内容、能力、経験などによって大幅に変動しますが、350万から500万程度が一般的に思います(2019年7月現在のオンラインリサーチに基づく)。 こちらの値は社内の校閲者を想定しています。フリーランスの方はレート別なので判断できかねます。
例えば、「校閲の範囲」について言えば、校閲する内容が訳抜けやスペルミスなどの「客観的なエラー」のみの場合と、文体まで整える「主観的な改善」まで含む場合とでは、必要な時間と能力が変わってくるので給料も変わります。
また、文章の難易度が高い科学系の分野や法律系の分野は給料が高い傾向にあるといった事実もあるかと思います。
なんにせよ、自分の能力を見極めて、自分に合った翻訳校閲のお仕事を探していくのが良いかと思います。
おわりに
私もそうですが、能力の高い校閲者を目指して、高給で仕事の絶えない素晴らしい校閲ライフを送りたいものです。
じゃあ、具体的にどうすれば良い校閲者になれるのでしょうか。そのような具体的な良い翻訳・校閲の方法に関しては、当ブログで随時紹介していきたく思います。
お忙しい中、お読みいただきありがとうございました。
この文章がどこかのだれかのためになることを願います。
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